【文化財・建造物】山形県酒田市 旧阿部家

余目駅から北に上がって田沢川沿いに小林温泉に進んでいくと、山元農村公園あたりの分岐に「旧阿部家」という標識が出ている。
旧阿部家というのは知らなかったが、先を急いでこういう標識を逃すと、たいてい行っとけばよかったと後悔することになる。
目的の温泉とは逆方向に進んで旧阿部家を探した。

酒田市(旧平田町) 旧阿部家

標識どおりに進むと、駐車場とは書いてないものの、道路沿いに広い駐車スペースがあり、その先に茅葺き屋根の住宅がある。おそらくここだろうと車を止めた。
果たしてそれが旧阿部家であった。

酒田市 旧阿部家

入口の案内板には「旧阿部家 坂本新田村肝煎住宅」とあり酒田市指定文化財と書いてある。
元禄三年(1690年)の建造で建造材は全て雑木を使用、しかも「チョウナ」仕上げとも書いてあり、雑木の意図が不明であるが、とにかく立派な建物である。

酒田市 旧阿部家 玄関側

これは良いものをみつけたと外をぐるぐる回って写真を撮っていると、管理人の方が建物から出てきて中も見られるという。おそらく管理人の方も暇だったのだろう、屋内を一通り案内してくれた。

入口には馬屋があり、実物大ともいえる馬の模型がこわい。

酒田市 旧阿部家 馬屋

馬屋を越えてさらに土間を進むと囲炉裏がある。茅葺きの保存のためか囲炉裏で火が焚かれている。
この囲炉裏は元々、茶の間にあったものを土間に移したそうだ。

酒田市 旧阿部家 土間

土間の横の茶の間が畳敷きだったので、「茶の間が畳敷きとは本当に裕福だったんですね」と聞くと「いや、元々は板の間で筵が敷いてありました」とのことだった。建物の大きさに興奮していたのだろう。冷静に考えると茶室でもあるまいし、囲炉裏のある部屋に畳を敷くわけがない。

ここから靴を脱いで上がる訳だが、素足でサンダルという格好だったので恥ずかしかった。素足でも構わないということだったが、靴下をはいて社会人としての礼儀をわきまえたい。

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茶の間の奥には居間や座敷が続いており、その周りを玄関に続いた廊下が囲っている。
玄関の横には部屋があり、来客はまずその部屋に案内され、主人が居間から座敷に出るまでそこで控えていたそうだ。

廊下の先には建て増した仏間がある。仏壇専用の部屋である。仏壇の扉を閉じて客人の寝室に使ったりもしたそうだが、現代の感覚だと仏間では怖くて眠れないだろう。当時の人の感覚は違ったのか。
内部の写真は管理人の方の説明を聞きながら回ったので撮り忘れた。

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またここには土人形が集められており、ひな祭りの時期には600体の土人形が飾られる。
土人形という言葉を初めて聞いたので「土人形ってなんですか」と聞くと「ん?土を固めた人形」と君はなにを言っているのかという顔をしている。
旧平田町あたりでは各家で人形の型を持っており、その型で成形した土を焼いて人形を作っていた。その人形が現代の核家族化において持て余され、ここ旧阿部家に持ち込まれて結果600体という数になったらしい。
ひな祭りシーズンに再訪して見てみたいものだ。

一通り回ってみて、この住宅は肝煎(庄屋)格としても贅沢なつくりだと思った。他地域の農家の旧住宅と比較しても立派で、作られた時代も違うのかもしれないが大変裕福な地域だったと思われる。
おまけにこの住宅の向かいには親類筋の住宅が道を挟んで対照に作られている。どれだけ裕福なんだという話である。

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外に出ると昼時だというのにずいぶん冷え込んでいた。
小林温泉に来る途中でここを知ったと話していたので、管理人の方が「温泉はもうはいったのですか?これだけ寒いと湯冷めしますよ」と心配してくれる。これから入るので大丈夫だと答えたけれど、暖房のない木造建築は冷え込みが激しく、身体が冷え切っていた(裸足だったし)。
このあたりは酒田市と行っても雪が1mくらい積もり、町中とはずいぶん違うそうだ。庄内より最上の気候が近いのかもしれない。

旧阿部家は本間家旧本邸や旧青山本邸ほど推されていないようなので、帰り際に「もっと大々的に案内すればいいじゃないですか」と言うと、「建物は好き好きがあるから」と控え目な答えだった。
ちなみに酒田市の住宅文化財で無料なのはここだけだそうだ。