湯宿温泉の共同浴場4箇所を巡る

湯宿温泉はみなかみ町にある国道17号線沿いの目立たない温泉地である。近くの猿ヶ京温泉と比べても土産物屋があるわけでなく、かなり物静かだ。
群馬と新潟間の交通は関越道が中心で、国道17号で三国峠を抜ける車はそれほど多くない。交通量が多くない上に目立たない温泉地なので、湯宿温泉の前を通っても素通りしてしまう人が多いのだろう、いつもひっそりとしている。

湯宿温泉

ひっそりしているところが好きで、新潟方面に行ったときは必ず寄る温泉になっている。共同浴場の外来が夕刻以降なので大概夜にいく。これまで何度来たことか。関東圏では一番好きな温泉かもしれない。
温泉街として期待していくとがっかりするかもしれないけれど、静かに温泉を楽しみたいならば間違いなくおすすめできる場所である。

湯宿温泉

湯宿温泉のバス停を降りると、旅館「ゆじゅく金田屋」と蕎麦屋「やまいち屋」の間に湯宿温泉に入る路地がある。
その路地にはゲンセンカン主人のラストシーンで主人公がくぐる建物に似た渡り廊下があった。つげ義春が湯宿温泉に来た当時にこの渡り廊下があったかどうかは知らないし、ラストシーンの建物がそもそも渡り廊下なのかどうかも分からない。でも初めて湯宿温泉に来てこの渡り廊下を見た時にゲンセンカン主人のイメージと結びついてしまったので、勝手にそう思っていた。
が、先日湯宿温泉に行ったら渡り廊下でつながっていた建物とともに取り壊されていた。

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少し薄暗かった路地の入口がすっかり明るくなっている。これからどう変わっていくのだろう。

みちの広場

路地を左に曲がると窪湯の横の手前に広場がある。窪湯の壁には薬師如来が祀られており、昼間はちょっと変わった湯上がりの休憩場所といえるが、夜に子供を連れてきたら泣く。

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清水の広場

湯宿温泉の南側の入口から少し歩いた先にあり、複数の石仏が集められ、清水が流れている。ここの石仏はそれぞれが別の場所にあったものをここに集めたのだそうだ。

湯宿温泉 清水の広場

石仏のうち一つは「さんや様」(三夜様のことか?)で、説明文には

ある時(江戸時代)新潟より出稼ぎに来る旅人が、途中なにかの拍子にり夜道に迷いこまっていた所、突然月があたりをこうこうと照らし出し二股道がはっきりと浮かび上がり旅人を目的地の湯宿へと導いた。

とある。
三国街道(三国峠)は江戸時代の冬でも交通の途絶えがない重要な街道であったので、湯宿温泉あたりも人の通りは多かったはずである。現代社会でも冬の三国峠は走りたくないのに、当時は大変な峠越えだったのだろう。

清水は飲用とは書いていないものの、作りからして飲用なのだと思う。何度か飲んで支障がなかったので問題ないものと思っている。
ちなみにすぐ近くの飲泉所は涸れている。

石畳

湯宿温泉の道は石畳で舗装され、街のひっそりした雰囲気をより高めている。夜に歩くと、ところどころの街灯に照らされた石畳はとても美しい。ゲンセンカン主人の「この町はまるで死んだように静かだな」という言葉がそのまま当てはまる(悪い意味で言っているわけではない)。

湯宿温泉 石畳

初めてきたときはつげ義春もこの石畳を歩いたのかとたいへん興奮した。修繕予算の関係か一部、石畳からアスファルトに置き換わっている箇所があり残念だ。

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ただこの石畳は比較的最近のもののようで、つげ義春が湯宿温泉に来たときはなかったようだ。
国道17号線沿いの案内には次のように書かれている。

温泉地全体に昔の湯治場の雰囲気が残されており、平成四年ふるさとづくり事業により旧街道の地域内の道路に石畳を敷き詰め街路灯、ポケットパークを設置し、のどかな温泉地の雰囲気を醸し出しています。

「これがゲンセンカン主人の世界ですよ」などと語っていた自分が恥ずかしい。

案内で現実に引き戻されたとしても、大滝屋に続く裏道などはやはりゲンセンカン主人の世界だと思う。

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温泉

湯宿温泉には四箇所の共同浴場がある。いずれも外来の入浴時間は16時から21時で、入浴料は脱衣場の善意の箱に100円以上いれることになっている。
外来入浴可能時間は木の板でドアが閉まらないようになっている。ドアを閉めてしまうと次の人が入れなくなってしまうので注意しよう。

窪湯

湯宿温泉を代表する共同浴場。いつも誰かしら入浴している。
他の3つの共同浴場の二人入ればだいたい一杯になる浴槽に対し、窪湯だけは4 - 5人入れる大きさを備える。またここにはカランもある。
湯宿温泉初であれば、やはりここから攻めるべきだろう。

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小滝の湯

脱衣場と浴場の仕切がないタイプ。窪湯に近いこともあり空いていることが多い。
個人的にはここが一番好き。

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松の湯

ここも脱衣場と浴場の仕切はない。またここだけ通りに面しておらず、場所が分かりづらい。目印は通りにある喫煙所のようなベンチだ。ここの家の裏に続くような隙間をはいっていくと松の湯がある。

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ここだけ建物が古いままで地元専用という噂もあるが、他と同じく外来の入浴時間が書いてあるので入っても構わないのだろう。
作りは古いものの地元の方には人気があるようで、入浴客がいることが多い。
石膏のような温泉の匂いもここが一番強いと思う。

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竹の湯

広々としたスペースの日当たりもよい場所にあり、脱衣場と浴場がガラス戸で仕切られているなど、なんとなくお洒落。
ここも空いていることが多い。空いているからというわけでもないのだろうが温泉が激熱なときがあり、熱湯好きの自分としてもしばらく入れなかったりする。
管理者の主義なのか脱衣場の板間にはバスマットが置かれていないことがあるので、上がる際には足をしっかり拭いてから上がりたい。

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