【中通りの食堂】福島県田村市 船引町 大滝食堂

以前、船引の街を探索したときに大滝食堂を発見していた。

今回鳴子からの帰り道として丸森町経由で阿武隈川沿いの国道349号を進んで、梁川あたりで昼食をとる予定だった。
国道349号を走るのは初めてである。阿武隈川は美しいが、国道は1.5車線くらいしかなく眺望を楽しんでいるわけにはいかない。ここは四国かと思った。

阿武隈川の氾濫のあとがまだはっきりと残っていて、当時この辺りに住んでいた人は大ごとだったのだろう。
対岸から噴き出している水を見たり(弘法の噴水というらしい。弘法大師はどこにでも出没する)、あぶくま駅はなぜあんなところにあるのか、利用する人がいるのか疑問を感じたり、阿武隈川すげーなーと思いながら呑気に走って梁川の街に着いたのがすでに13時過ぎだった。
梁川で昼食をとろうと思いながらも下調べはしていなかったので、車から見えた食堂にはいるつもりが県道31号浪江国見線に進んでしまい、山の中を走っていくので食堂があるわけがない。

途中の道の駅で食事をとることも考えたが道の駅ではつまらない。つまらないながらどうするかと考えていたところ、船引の大滝食堂を思い出した。船引に到着するのは3時前で営業しているかどうか分からないが、賭けてみることにした。

船引町

船引町にはふねひきパークというモールみたいなのがある。大滝食堂に駐車場はなかったようなので(後で見たらあった)、ここの駐車場を拝借する。

ふねひきパーク

ふねひきパークはスーパーを中心に靴屋や衣料品店などがはいっていて、ここでなんでもそろいそうだ。正面の入口にはうどん屋もある。家族亭のとくとくというチェーンで全国に2軒しかない大変貴重な店である。
大滝食堂が開いていなければうどんを食べるつもりで営業時間を見ると16時閉店という、船引の人々の生活時間はどうなっているのかと考えさせる閉店時間だった。

大滝食堂

ふねひきパークの正面から国道を東に歩いていく。この道は歩道がなく大型車が通るので、曲がる信号までほんの100mほど歩くのが怖い。信号を左折してすぐ大滝食堂がある。時刻は13時ちょうどである。

船引町 大滝食堂

のれんはでている。店前に並べられた鉢植えのすたれ具合とその背面のタイルが渋い。住宅なのだろうか二階部分のふすまの破れ具合もいい。入口左の出窓も鉢植えが置いてあるので、のれんがなければなんの店か分からない。

引き戸を開けると、正面のテーブルに座っていたばあさんがこちらを見た。店の人なのか客なのか分からないが、まだいいですかと聞くといらっしゃいと立ち上がった。どうやら店の人のようだ。

フロアにはテーブルが三つあり、ひとつは雑多なものが置かれて埋まっている。いすが六つおかれている四人掛けのテーブルの後ろには座敷があるようだが、閉め切られていて使われているのかどうか分からない。
四人掛けのテーブルの入口に一番近い椅子に座った。

船引町 大滝食堂

ばあさんは年のせいか少し腰が曲がっており、曲がった腰を伸ばしながらお茶を入れてくれる。それだけで申し訳ない。
できるだけばあさんに負担にならないものをと思ったが、まあどれも変わらないだろうと定番のカツ丼を注文した。のれんにもカツ丼と書いているし、主要メニューなんだろうと思う。

ばあさんはときどき鼻歌を歌いながら調理をしている。機嫌は良いようだ。テレビでは「大家さんと僕」というアニメをやっている。
待っているあいだ上着を脱ごうと思ったが寒くて脱げない。室内では上着を脱ぐべきだが、致し方ない。テレビの上の温度計は12度を指していた。

カツ丼はたくさん具のはいった味噌汁と山菜のおひたし(?)、山盛りの漬物と一緒にやってきた。

船引町 大滝食堂 カツ丼

野菜がたくさん入っている味噌汁はぜったい体に良い。カツ丼のカツの下には大量の玉ねぎが敷き詰められ、おひたしも含めれば一日分の野菜が摂取できるはずである。
漬物はしっかりと漬けられていてたくさん食べられる味付けではないが、年寄に出されたものは残せないので全部食べる。

調理が終わったばあさんはテーブルに座りなおして、チャンネルを「大家さんと僕」から競馬に変えた。競馬好きなのか?
競馬を見ながらモップの棒を背中に横に構えて背を伸ばしている。

全部食べ終えて会計をすると、それまで喋らなかったばあさんが「今日は風がなくてよかったね」と言った。
今日は暖かいと引き戸を開けて出ようとすると「うん、今日はあたたかい」と送り出してくれた。

この店に来てよかった。